横綱昇進と見送り(1)

横綱の地位は相撲の歴史の中で大きく3段階に分かれます。

単なる称号:初代から明治中期

称号と地位の混合:明治中期から戦後まもなくまで

完璧な地位:1951年以降

ここでは1951年以降の横綱の昇進と見送りについて述べます。

 

【41代】千代の山

S24⑩ 13-2◎(新大関

S25① 12-3◎

S25⑤ 9-6

S25⑨ 11-4

S26① 8-7

S26⑤ 14-1◎

◎:優勝

現在の基準でいえば大関で連覇しながら昇進していない。これは「前田山」引責引退と当時の横綱の成績不振で、横綱免許をめぐる協会と司家の間に起きた争いが原因で、S26年一月に協会が司家の免許授与権を取り上げて協会が推挙する形に決着し、その後の単発優勝で昇進させた特殊例。昇進時の成績は全く問題にならないけれど、大関で連覇しているので、救済昇進の形を取ったと思われる。直前3場所33勝、直前2場所22勝、今なら大関の昇進基準。

 

【42代】鏡里

S26⑤ 10-5(新大関

S26⑨ 12-3〇

S27① 11-4

S27⑤ 11-4

S27⑨ 12-3〇

S28① 14-1◎

〇:準優勝

大関全キャリアで全て10勝以上、直前3場所37勝、直前2場所26勝、直前実績〇+◎、どれも及第点で問題なし。順当な昇進。

 

【43代】吉葉山

S26⑤ 10-5(新大関

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S28① 6-3-6休

S28③ 10-5

S28⑤ 14-1〇

S28⑨ 11-4

S29① 15-0◎

大関時代の負け越しは途中休場のS28①のみ。S28⑤の〇は上位と取り組みのない平幕の全勝優勝で今の取り組み編成なら優勝している可能性が高い。直前3場所40勝、直前2場所26勝、直前実績、無印+◎(14〇を優勝と評価すると飛び石優勝) 現在の基準だとS28⑨の11勝無印が問題となるかもしれないが、直前3場所40勝・直前場所全勝を考慮すると、全く問題がない成績。昇進して当然の成績と評価できる。(横綱時代に3場所40勝を記録している横綱はかなり限定される:横綱で達成、大鵬北の湖千代の富士

 

【44代】栃錦

S28① 11-4(新大関

S28③ 14-1◎

S28⑤ 13-2(2差3位)

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S29③ 9-6

S29⑤ 14-1◎

S29⑨ 14-1◎

大関昇進直後の3場所で、直前3場所38勝、直前2場所27勝、直前実績、無印+◎で見送り。特に13勝の無印(前述の吉葉山14〇の時に13勝)は運が悪いというしかないので、この時に昇進していても問題ない。実際の昇進時は直前3場所37勝、直前2場所28勝、直前実績◎+◎。ハイレベル連覇での昇進で、むしろS28⑤直後に昇進していた方が自然な感じがする。

 

【45代】若乃花

S31① 13-2(1点差3位)(新大関

S31③ 12-3△

S31⑤ 12-3◎

S31⑨ 12-2-1休〇

△:優勝同点

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S32⑨ 11-4

S32⑪ 12-3〇

S33① 13-2◎

大関昇進直後の4場所は綱目前の成績で、どの場所もあと1勝挙げれば、文句なく昇進の成績。特にS31⑨は12連勝からドクターストップの休場(当時は2日後の割まで決められていたので2敗は不戦敗)でまさしく、綱目前。実際の昇進時は直前3場所36勝、直前2場所25勝、直前実績〇+◎ 現在だと微妙な扱い(双羽黒廃業以前なら昇進の可能性が高い)になるが、大関で全場所10勝以上の安定感もあって、昇進となる。 

 

【46代】朝潮

S32⑤ 9-6(新大関

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S33③ 13-2◎

S33⑤ 5-4-6休

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S33⑨ 11-4

S33⑪ 14-1◎

S34① 11-4〇

S34③ 13-2〇

大阪場所で4回優勝(通算5回の優勝)と徹底的に大阪場所に強かった朝潮。関脇で2回優勝(2回とも大阪場所)という珍しい記録を残して大関に昇進。大関昇進後初めてのS33大阪場所で3回目の優勝を飾るも、綱取りはあえなく途中休場。実際の昇進では直前3場所38勝、直前2場所24勝、直前実績〇+〇 直前場所の13〇は評価できるが、その前場所が11勝なのでかなりのマイナス。3場所前の14◎で直前成績を補った体裁。もし3場所前の14が〇なら昇進はなかったかもしれない。

 

ここまでで、

【昇進例】

千代の山 11-4 8-7 14-1◎

鏡里   11-4 12-3〇 14-1◎

吉葉山  14-1〇 11-4 15-0◎

栃錦   9-6 14-1◎ 14-1◎

若乃花  11-4 12-3〇 13-2◎

朝潮   14-1◎ 11-4〇 13-2〇

千代の山の昇進例を例外とすると、その他の昇進例では直前3場所36勝以上、直前場所13勝以上、朝潮の昇進を3場所前の14◎が効いていると考えると、直前2場所25勝以上が標準的な昇進下限と考える事ができる。

【見送り例】

千代の山 13-2◎ 12-3◎(連覇で見送られた唯一の例:現時点でもこの例しかない)

栃錦 11-4 14-1◎ 13-2(3)(直前場所が13勝で準優勝にならず雰囲気で見送りとなった感じがある:準優勝なら昇進の可能性が高い)

若乃花 13-2(3) 12-3△ 12-3◎ 12-2-1休〇(全ての場所で優勝を争い、かつ優勝1回、同点1回、準優勝2回、この中のいずれの場所で上げていても不公平感はない)

 

(この記事は日高将著「横綱昇進」(同友館)に負うところが大きい:まるまるコピーではないですが、左記著作を参考にして書いています)